ミュージアムへ行こう

──旅の途中に、ひとつの扉を開く

知らない土地を旅するとき、必ず「ミュージアム」に立ち寄るようにしています。
なぜか? その場所の空気に触れ、人に会い、歩きながら得た感覚を、もう一度落ち着いて言葉にできる場所だからです。
旅とは、風のように過ぎ去っていくものだが、ミュージアムの中には、その土地の記憶と意味が、静かに蓄えられています

そもそも「ミュージアム」とは?

『ミュージアム』と聞くと、美術館や博物館を思い浮かべるかもしれません。実際、日本の法律(博物館法)でも、美術作品を展示する美術館はもちろんのこと、生きた動物を展示する動物園、さらには植物園、水族館なども、その収集する資料の種類や活動内容によって『博物館』の仲間として捉えられています。その役割はもっと広く、国際的な定義では、

ミュージアムとは人々の学びと楽しみのために、資料を収集・保存・研究・展示・教育普及する公共的な施設

です。つまり、ただモノが並んでいるだけの場所ではなく、人類の知や文化、自然を未来につなぐハブのような存在ということになります。

ミュージアムにはいくつかの“かたち”がある

日本のミュージアムは、運営や法的立場によって次の4つに分類されています。

  1. 登録博物館
  2. 博物館相当施設
  3. 博物館類似施設
  4. その他(資料館・展示施設など)

このうち「登録博物館」は、博物館法に基づき、都道府県または指定都市の教育委員会によって登録される施設で、治体や公益財団法人など公共性の高い団体に限られ、営利企業単独での設置はできません。登録されるためには、博物館法に定められた目的(資料の収集・保管・展示、調査研究、教育普及活動など)を達成するための要件を満たす必要があります。具体的には、適切な博物館資料の保有、事業を行うための施設・設備、年間150日以上の開館日数、そして専門職員である「学芸員」の配置などが法律で定められた基準として求められます(博物館法第4条、第12条など)

また、自治体が運営主体である場合でも、その管理のかたちは一様ではありません。
たとえば、

  • 市長部局(市の直轄)として、広報や観光、都市政策などと連携する館もあれば、
  • 教育委員会の下部組織として、文化・教育行政の一部として位置づけられている館もあります。

前者は地域の魅力発信を担い、後者は文化財保護や学習支援といった教育的な側面に重きを置く傾向があります。つまり、その館がどこに属しているかによって、活動の方向性や役割も微妙に異なります。

さらに、館の運営方法としては、自治体が直接運営する「直営型」と、NPOや民間団体が委託を受けて管理する「指定管理型」があります。どちらのかたちであっても、ミュージアムが地域に果たす役割の大きさは変わりません。

学芸員という存在

そして、そのミュージアムの中核にいるのが学芸員です。

国家資格である学芸員資格を有する学芸員は、博物館資料の収集、保管、展示及び調査研究、その他これらに関連する専門的な事項を担当する職員です(博物館法第4条) 。登録博物館には、この学芸員の配置が法律で義務付けられています。

そして、この資格を持つ人は登録博物館だけでなく、法律上の配置義務がない企業ミュージアムや大学博物館、研究機関などにおいても、その専門性を活かして「学芸員」として、あるいは学芸業務に携わることができます

彼らが企画する展示の裏では、彼らの調査・研究を重ね、ストーリーを組み立て、見せ方を工夫しています。専門は考古学、自然科学、歴史、美術など多岐にわたり、展示だけでなく、教育活動や収蔵管理、資料保存など、広い領域を担っています。

さらに、企画展の期間中には「ギャラリートーク」という学芸員による特別解説が行われることもあり、直接質問できる貴重な時間となります。こうした現場での対話から得る知識や視点は、ネットや本では得られない“生きた情報”です。

旅の中でミュージアムが果たすもの

ミュージアムに惹かれる理由は、単に知識を得られるからではありません。
その土地の“深層”に触れるきっかけになるからです。

たとえば、ある町を訪れたとき、たまたま開催されていた地域の祭り。その歴史や意味を、ミュージアムの企画展で初めて知ることができます。写真や道具、口承の記録などを通して知識が補われたあと、もう一度その町を歩いてみると、目に映る景色がまるで違って見えてきます。こうした「先に見て、あとで気づく」という経験ができるのも、ミュージアムの魅力です。

ミュージアムに立ち寄る理由

ミュージアムは展示だけではありません。館の入口に、他の館のパンフレットがまとめて置かれていたり、資料室が無料で公開されていたりすることもあります。
中には図書館を併設している施設もあり、たとえば横浜市歴史博物館では、専門司書が常駐する図書閲覧室を備えており、調べ物をする来館者に丁寧に対応しています。

さらに、カフェやレストランが併設されている館も多く、旅の途中の休憩場所としてもありがたい存在となっています。また、高台や公園に隣接していることも多く、景観も楽しめます。
“見る”“知る”だけでなく、“過ごす”場所としてもミュージアムは優秀だと感じます。

「知らない」を「知っている」に変える場所

ミュージアムとは、その土地を「通り過ぎる旅」から「立ち止まって知る旅」へと変えてくれる存在です。展示をきっかけに、地域とつながる。また、学芸員との対話を通じて、旅の奥行きが深まります。
旅の工程に少しだけ余白をつくって、ミュージアムを訪れてみる。
その一歩が、新しい発見と理解への扉となるでしょう。

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