大阪 | 国宝が集う美の殿堂(大阪市立美術館)

再生と祝祭──新たなる世紀へ

天王寺に輝きふたたび:美の殿堂の新たなる幕開け

大阪の文化を象徴する天王寺公園の一角に佇む大阪市立美術館は、昭和11年(1936年)の開館以来、まもなく90年の長きにわたり市民に親しまれてきた美の殿堂である。この歴史ある美術館が、開館以来初めてとなる大規模改修工事を経て、2025年3月に新たな姿で開館する運びとなった。この記念すべき再出発と、時を同じくして開催される2025年日本国際博覧会(大阪・関西万博)を祝し、日本美術史上に燦然と輝く国宝約130件(資料により約135件とも)が一堂に会する空前の特別展「日本国宝展」が開催される。今回のリニューアルは、「ひらかれた美術館」という新たなコンセプトを掲げ、より多くの人々が美術に親しめる空間へと生まれ変わることを目指している。この大規模改修と特別展は、単に施設の刷新や一大イベントの開催に留まらず、大阪市立美術館が地域文化の拠点として、また日本文化発信の国際的な舞台として、その存在感を一層高める戦略的な機会と位置づけられる。90年の歴史を持つ施設が初めて大規模な改修を行うという事実は、その建築遺産としての価値を尊重しつつ、現代の美術館に求められる機能性と快適性を追求する慎重かつ長期的な視点からの取り組みを示唆している。

リニューアルで進化する鑑賞環境とアクセス

特筆すべきは、特別展「日本国宝展」における週末および祝日の日時指定予約優先制の導入である。これは、国宝が一堂に会すという稀有な機会に対する高い関心と来館者集中を想定した措置であり、美術館側の周到な準備と、より快適な鑑賞環境を提供しようとする意図の表れと言える。また、リニューアル後の主要な変更点として中央ホールが無料開放されることは、美術館の「ひらかれた」性格を象徴し、より多くの人々が気軽に芸術の雰囲気に触れる機会を提供するものとなるだろう。これらの料金設定や入場システムは、展覧会の性質や予想される来場者数に応じて柔軟に対応する、現代的な美術館運営の一端を示している。

住友家の寄贈から文化財の殿堂へ、九十年の軌跡

大阪市立美術館の歴史は、昭和11年(1936年)5月の開館に遡る。日本の公立美術館の中でも草分け的存在の一つであり、その誕生には大阪の実業界を代表する住友家の多大な貢献があった。美術館の敷地は、天王寺公園内のかつて住友家の本邸があった場所であり、この広大な土地と、隣接する名園「慶沢園」が、美術館建設を目的として大正15年(1926年)に住友家15代当主・住友吉左衛門(友純、号は春翠)から大阪市へ寄贈されたものである。慶沢園は、近代日本庭園の巨匠として名高い七代目小川治兵衛(植治)が作庭を手がけた池泉回遊式庭園であり、当初は住友春翠の「照代之恩恵祖先の余沢」(輝かしい時代の恩恵と祖先の残した恵み)という思いを込めて「恵沢園」と名付けられたが、竣工時に「慶沢園」と改められたという逸話も残る。この事実は、単なる土地提供に留まらない、深い文化的見識と地域社会への貢献意識が美術館設立の根底にあったことを物語っている。

美術館本館の建物は、建築家の伊藤正文氏と海上静一氏の設計により昭和11年(1936年)4月に竣工した。鉄骨鉄筋コンクリート造の重厚な様式建築は、平成27年(2015年)に国の登録有形文化財に登録されており、今回の改修工事もその歴史的価値を尊重しつつ行われた。

開館当初より、大阪市立美術館は市民に優れた美術文化に接する機会を提供し、生活に潤いをもたらすとともに、美術家の活動を助成し、広く大阪の文化振興に資することを目的としていた。単に美術団体展の会場を提供するだけでなく、独自のコレクションを形成し常設展示を行うという明確な意向が設立当初からあり、これが今日の充実した収蔵品の礎となった。昭和初期という時代背景を鑑みれば、産業の発展とともに文化施設の整備が求められる中、住友家のような財界の有力者による篤志が、日本の文化基盤形成に大きな役割を果たした事例の一つと言えるだろう。

美術館のコレクションは現在約8,700件を数え、その多くは購入品に加え、戦前の関西財界を中心とする個人コレクターからの寄贈によって形成されてきた。特に、中国書画の「阿部房次郎コレクション」、中国石仏を中心とする「山口謙四郎コレクション」、日本の蒔絵や印籠、根付などの「カザール・コレクション」、日本古美術の「田万コレクション」、近代日本画の「住友コレクション」、中国金石拓本の「師古斎コレクション(岡村蓉二郎氏)」、そして「小野順造コレクション」や鍋島焼を中心とする「田原一繁コレクション」など、世界的に評価の高い個人コレクションの数々が、大阪市立美術館の学術的価値と魅力を高めている。さらに、近畿地方を中心とする社寺から寄託された仏教美術品など約5,000件も収蔵しており、地域文化財の保護と公開という重要な役割も担っている。これらの事実は、大阪市立美術館が単なる美術品展示施設ではなく、篤志家の美意識と研究者の情熱、そして地域社会の信頼によって育まれてきた文化遺産の宝庫であることを示している。

特別展「日本国宝展」──時代を映す美の精華、大阪で相見える

大阪市立美術館のリニューアルオープンと2025年大阪・関西万博を記念して開催される特別展「日本国宝展」は、日本の美術史における至宝が一堂に会する、まさに空前絶後の展覧会である。出品される約130件(資料により約135件とも)の作品すべてが国宝指定を受けており、このような規模と内容で国宝のみを展示する展覧会は大阪では初めての試みとなる。会期は2025年4月26日から6月15日までで、期間中には一部展示替えも予定されている。本展の担当学芸員は、同館の山下真由美氏であり、氏は日本近世絵画、特に円山四条派や江戸時代の風景画を専門としている。

展覧会は大きく二部構成で展開される。

**第1部「ニッポンの国宝」**では、縄文時代から江戸時代に至るまで、幅広い時代と多様なジャンルの国宝作品を通じて、日本の美の歴史を辿る。この部はさらに6つのテーマに分かれ、日本の美意識の精髄を多角的に紹介する。

  1. 「日本美術の巨匠たち」: 雪舟、狩野永徳、長谷川等伯といった日本美術史を代表する巨匠たちの名作が集う。長谷川等伯筆《楓図》、狩野永徳筆《唐獅子図屏風》(皇居三の丸尚蔵館蔵)、雪舟筆《四季山水図巻(山水長巻)》(毛利博物館蔵)、そして伊藤若冲筆《動植綵絵》より《秋塘群雀図》《群鶏図》《芦雁図》の3幅(皇居三の丸尚蔵館蔵)などが出品される。
  2. 「いにしえ文化きらきらし」: 日本文化の源流をたどる考古遺物を展示。新潟県出土の火焔型土器や金印「漢委奴国王」など、歴史の教科書でもお馴染みの遺物が並ぶ。
  3. 「祈りのかたち」: 仏教美術の精華を紹介。京都・神護寺蔵の《伝源頼朝像》など、信仰が生み出した崇高な美の世界が広がる。
  4. 「和と漢」: 日本独自の美意識と中国文化の影響関係を示す作品群。中国・南宋時代の李迪筆《紅白芙蓉図》(東京国立博物館蔵)などが展示される。
  5. 「優雅なる日本の書」: 日本の書の美しさを堪能できる名筆の数々。藤原定実筆《古今和歌集序》(大倉集古館蔵)などが紹介される。
  6. 「サムライ・アート」: 武士の文化が生み出した刀剣や甲冑などの美術工芸品。

この他にも、長谷川久蔵筆《桜図》(智積院蔵)、尾形光琳筆《燕子花図屏風》(根津美術館蔵)、本阿弥光悦作《舟橋蒔絵硯箱》(東京国立博物館蔵)など、日本美術を代表する数々の国宝が出品される。これらの作品群は、単に美術品としての価値だけでなく、それぞれの時代精神や文化を映し出す鏡であり、本展のテーマ設定は、美術史の流れを理解しやすく提示する教育的な意図も見て取れる。

**第2部「おおさかゆかりの国宝」**では、大阪の歴史と文化の厚みを示す、地元ゆかりの国宝に焦点を当てる。これにより、全国的な規模の展覧会でありながら、開催地である大阪の文化的重要性も強調される。具体的には、四天王寺所蔵の《金銅威奈大村骨蔵器》(慶雲4年・707年)や、同じく四天王寺が所蔵する平安時代12世紀の《扇面法華経冊子》などが展示される予定である。

本展は、美術工芸品の頂点とも言うべき国宝を通じて日本の美の歴史を辿る貴重な機会を提供するだけでなく、文化財を未来へ伝えていくことの意義についても考える契機となることを目指している。大阪で初めて開催される大規模な国宝展として、美術ファンのみならず多くの人々の関心を集めることは間違いないだろう。

特別展「日本国宝展」主要展示構成と代表作品例

テーマ・セクション代表作品例作者/年代所蔵展示予定期間(特記ない場合は会期中の一部)
第1部日本美術の巨匠たち《楓図》長谷川等伯筆/桃山時代京都・智積院5月13日~6月1日
《唐獅子図屏風》狩野永徳筆/桃山時代皇居三の丸尚蔵館5月20日~6月15日
《四季山水図巻(山水長巻)》雪舟筆/室町時代山口・毛利博物館5月27日~6月15日
《動植綵絵のうち秋塘群雀図・群鶏図・芦雁図》伊藤若冲筆/江戸時代国(皇居三の丸尚蔵館収蔵)
いにしえ文化きらきらし《火焔型土器》縄文時代中期・約5400~4500年前新潟・十日町市(十日町市博物館保管)通期展示
金印「漢委奴国王」弥生時代福岡市博物館
祈りのかたち《伝源頼朝像》鎌倉時代・13世紀京都・神護寺6月3日~6月15日
和と漢《紅白芙蓉図》李迪筆/中国・南宋時代・慶元3年(1197)東京国立博物館4月26日~5月18日
優雅なる日本の書《古今和歌集序》藤原定実筆/平安時代東京・大倉集古館
サムライ・アート(具体的な作品例は現時点では不明)
その他(第1部)《桜図》長谷川久蔵筆/桃山時代京都・智積院
《燕子花図屏風》尾形光琳筆/江戸時代東京・根津美術館
《舟橋蒔絵硯箱》本阿弥光悦作/江戸時代東京国立博物館4月26日~5月18日
第2部おおさかゆかりの国宝《金銅威奈大村骨蔵器》白鳳時代(慶雲4年・707)大阪・四天王寺
《扇面法華経冊子 法華経巻第一》平安時代(12世紀)大阪・四天王寺

美術館の歴史を彩る物語の断片

大阪市立美術館の豊かな歴史は、いくつかの興味深い物語によって彩られている。これらのエピソードは、美術館の設立背景や文化的役割、そして地域との関わりをより深く理解する手がかりとなる。

住友家の深き厚意と慶沢園の命名秘話 美術館設立の最大の功労者である住友家の寄贈には、単なる財産提供を超えた文化への深い理解と願いが込められていた。特に、美術館の敷地と共に寄贈された名園「慶沢園」の命名には、当時の当主・住友春翠の個人的な思いが反映されている。当初「恵沢園」と名付けられたこの庭園は、「照代之恩恵祖先の余沢」(輝かしい時代の恩恵と祖先の残した恵み)という言葉に由来し、完成時に「慶沢園」と改名された。この改名には、先祖への感謝と未来への祝福の念が込められていると解釈でき、美術館が単なる美術品展示の場ではなく、精神的な豊かさをもたらす文化の殿堂として構想されていたことを示唆している。

先駆的な展覧会開催──日本初のフェルメール単独展 大阪市立美術館は、開館初期から国際的な視野を持ち、先進的な文化事業を展開してきた。その象徴的な事例として、日本で初めてヨハネス・フェルメールの単独展を開催したことが挙げられる。当時、フェルメールの作品が日本でまとめて紹介されることは極めて稀であり、この展覧会の実現は、美術館の高い企画力と国際的なネットワーク、そして市民に世界の至宝を紹介しようという強い意志を示すものであった。この成功は、大阪市立美術館が日本の美術界において指導的な役割を担う存在であることを初期から印象付けた。

知られざる考古学への貢献 大阪市立美術館のコレクションは絵画や工芸品に留まらず、「知られざる考古コレクション」と呼ばれる一群の考古資料も有している。特筆すべきは、美術館がかつて独自の考古調査隊を組織し、大阪府下の遺跡発掘調査を積極的に行っていた点である。昭和34年(1959年)には、当時の高石町と共同で富木車塚古墳の発掘調査を実施するなど、地域史の解明にも貢献してきた。こうした学術研究活動は、美術館が美術品の展示だけでなく、文化財の調査・研究機関としての側面も持っていたことを示しており、その多面的な役割を浮き彫りにする。物議を醸した《黒陶 舞人》も、この考古学コレクションの一部である。

新キャラクター「羽人」の誕生 近年の興味深い取り組みとして、美術館が収蔵する古代中国の工芸品《青銅鍍金銀 羽人》(後漢時代・山口コレクション)をモチーフにした新しいマスコットキャラクター「羽人(はねびと)」が誕生したことが挙げられる。このキャラクターには、展示ケースの横にユーモラスな「履歴書」が掲示されるなど、親しみやすい演出が施されている。古代の遺物を現代的な感覚でキャラクター化し、解説に遊び心を取り入れるという試みは、特に若い世代や美術に馴染みの薄い層に対して、古代美術への関心を喚起し、心理的な距離を縮める効果が期待できる。これは、美術館が目指す「ひらかれた美術館」というコンセプトを、展示手法の面からも実践しようとする意欲の表れと言えるだろう。

これらのエピソードは、大阪市立美術館が単に美術品を展示するだけでなく、篤志家の高い志、学術研究への貢献、そして時代に応じた新たな試みを通じて、常に市民と共に歩んできた文化施設であることを物語っている。

伝統と革新が織りなす、新たな美の空間

昭和11年(1936年)の開館以来、初めてとなる大規模改修工事は、約2年半の歳月をかけ、2022年秋から2025年3月にかけて実施された。この改修は、国の登録有形文化財である歴史的建造物の価値を最大限に活かしつつ、「ひらかれた美術館」というコンセプトのもと、現代の美術館に求められる機能性と快適性を追求したものである。

新エントランスとアクセシビリティの向上 今回のリニューアルにおける最も大きな変更点の一つが、バリアフリーに対応した新エントランスの設置である。公園のグラウンドレベルから直接入館できるようになり、従来の大階段を利用せずとも、新設されたエスカレーターで中央ホールへとスムーズにアクセス可能となった。これにより、高齢者や車椅子利用者、ベビーカー利用の家族連れなど、あらゆる人々にとって格段に利用しやすい施設へと生まれ変わった。エントランス周辺には、新しいミュージアムショップ、コインロッカー、授乳室、救護室なども整備され、来館者の利便性が大幅に向上している。

中央ホールの無料開放と空間再生 美術館の象徴的な空間である中央ホールは、今回の改修で創建当初の高さ13メートルに及ぶ白漆喰の天井が露わになり、大理石の床や柱と相まって、荘厳かつダイナミックな空間として蘇った。この中央ホールは無料ゾーンとして開放され、誰もが気軽に美術館の雰囲気に触れられる「ひらかれた」空間の核となる。

ミュージアムショップとカフェの新設 エントランスエリアには新たなミュージアムショップが設けられ、展覧会関連グッズや美術書籍などを購入できる。また、待望のカフェも新設された。カフェは、建築当初の高い天井を活かし、自然光が豊かに差し込む設計となっており、隣接する日本庭園「慶沢園」を望むテラス席も用意され、美術鑑賞の合間にくつろぎのひとときを提供する。

ギャラリー機能の強化 展示室においては、作品保護と鑑賞環境の向上のため、展示ケースが刷新された。一部のケースには免震構造が採用され、貴重な文化財を地震から守る機能が強化されている。特に注目すべきは、高さ3.5メートルにも及ぶ中国書画などを初めて展示可能にする「特大展示ケース」の新設である。照明設備も最新式に更新され、作品ごとに最適な光環境をタブレットで調整できるシステムが導入された。これにより、作品本来の色彩や質感をより忠実に鑑賞できるようになる。

収蔵機能の拡充と建物の保全 美術館の根幹を支える収蔵庫は、面積がほぼ2倍に拡張され、収蔵能力が大幅に向上した。これにより、増加する収蔵品や寄託品をより適切な環境で保管することが可能となる。また、建物全体の耐震補強工事が実施され、文化財としての建物を未来へ継承するための基盤が強化された。目に見えない部分では、断熱材の設置や空調設備の全面的な入れ替えなども行われ、省エネルギー化と快適な館内環境の実現が図られている。

多目的スペースの整備 従来の地下展示室は「天王寺ギャラリー」としてリニューアルされ、引き続き美術団体による展覧会などに活用される。新たに設けられた多目的ホール「じゃおりうむ」は、自然光が差し込む開放的な空間で、美術館開館中も利用可能であり、大規模なセミナーや会議にも対応できる。3階にはアトリエも整備され、ワークルームを備えたこのスペースは、セミナーやワークショップ、簡単な飲食を伴う催しなど、多様な用途での活用が期待される。さらに、通常非公開の特別室も、少人数の会議や会食などに利用できるようになった。

これらの改修は、大阪市立美術館が、歴史的建造物としての魅力を保ちながら、現代の多様なニーズに応える文化拠点として、新たな一歩を踏み出すための重要な布石となる。年間開館日数を300日に増やす方針も示されており、より多くの人々が美術に触れる機会を提供するという「ひらかれた美術館」の理念を具現化するものである。

美術鑑賞とあわせて巡る、天王寺・新世界の賑わい

大阪市立美術館は、大阪の主要な都市公園である天王寺公園内に位置しており、美術鑑賞の前後に周辺の多彩な観光スポットを巡ることができる恵まれたロケーションにある。

慶沢園 美術館に隣接する慶沢園は、かつての住友家本邸の庭園であり、美術館と共に大阪市に寄贈された純日本風の林泉回遊式庭園である。近代日本庭園の巨匠、七代目小川治兵衛(植治)によって作庭され、池を中心に築山や茶室、四阿(あずまや)が配された美しい景観を誇る。リニューアルされた美術館のカフェテラスからは、この庭園を眺めることができ、静寂の中で美術鑑賞の余韻に浸ることができる。

天王寺動物園 同じく天王寺公園内にある天王寺動物園は、大正4年(1915年)に開園した日本で3番目に古い歴史を持つ動物園である。アフリカサバンナゾーンや爬虫類生態館「アイファー」など、動物の生息環境を再現した展示が特徴で、家族連れにも人気のスポットである。

四天王寺 推古天皇元年(593年)に聖徳太子によって建立されたと伝えられる日本仏法最初の官寺であり、日本最古級の寺院の一つである。境内には五重塔をはじめとする貴重な建造物が立ち並び、「四天王寺式伽藍配置」と呼ばれる独特の様式を今に伝えている。多くの国宝や重要文化財を所蔵しており、美術館の展示と合わせて日本の仏教美術や歴史に触れることができる。天王寺駅周辺から徒歩約10分。

あべのハルカス 地上300メートルを誇る日本一の超高層ビルで、天王寺駅・大阪阿部野橋駅に直結している。展望台「ハルカス300」からは大阪平野を一望でき、館内には百貨店、ホテル、そして「あべのハルカス美術館」も併設されている。

通天閣・新世界 大阪のシンボルとして名高い通天閣と、その足元に広がる新世界は、独特のレトロな雰囲気が漂う繁華街である。串カツをはじめとする大阪グルメを堪能したり、昔ながらの遊技場を楽しんだりできる、大阪らしい賑わいを感じられるエリアである。天王寺エリアからは電車または徒歩でアクセス可能。

てんしば 天王寺公園のエントランスエリアに広がる芝生広場で、カフェやレストラン、アスレチック施設などが集まる憩いの空間である。ピクニックや散策を楽しむ人々で賑わい、都市の中のオアシスとして親しまれている。

これらのスポットは、大阪市立美術館を訪れる際に、大阪の歴史、文化、自然、そして現代的な魅力を多角的に体験することを可能にする。特に、美術館と歴史的に深いつながりのある慶沢園や、同じく天王寺公園内にある天王寺動物園は、美術鑑賞と合わせて気軽に立ち寄れるだろう。また、四天王寺のような古刹は、美術館で展示される仏教美術への理解をより深める上で貴重な訪問先となる。

世紀を超えて輝きを増す、大阪文化の至宝

まもなく開館90周年を迎える大阪市立美術館は、その豊かな歴史と優れたコレクションにより、長年にわたり大阪、そして日本の文化芸術振興に大きく貢献してきた。今回の開館以来初となる大規模改修は、この美の殿堂に新たな息吹を吹き込み、未来へとその輝きを継承するための重要な一歩である。

リニューアルによって実現された「ひらかれた美術館」というコンセプトは、バリアフリー化された新エントランス、無料開放される中央ホール、そして新たに設けられたカフェやミュージアムショップといった施設面の充実に加え、最新の展示技術の導入や収蔵機能の強化といった美術館としての核となる機能の向上にも表れている。これにより、より多くの人々が快適に、そして深く美術作品と対話し、学び、楽しむことができる環境が整えられた。歴史的建造物としての風格を保ちつつ、現代のニーズに応える機能性を融合させた今回の改修は、文化遺産の保存と活用における一つの優れたモデルケースと言えるだろう。

そして、この新たな門出を飾る特別展「日本国宝展」は、まさに圧巻の一言に尽きる。日本全国から選りすぐられた国宝約130件が一堂に会するという、またとない機会は、大阪・関西万博という国際的なイベントとも連動し、国内外に日本文化の粋を発信する絶好の機会となる。縄文の造形から近世の絵画に至るまで、日本の美の歴史を辿るこの展覧会は、学術的にも教育的にも極めて価値が高く、多くの来館者に深い感銘と知的好奇心を与えることだろう。特に「おおさかゆかりの国宝」部門は、地域の文化遺産への誇りを再認識させるとともに、大阪が育んできた豊かな文化の土壌を改めて示すものとなる。

大阪市立美術館の再生は、単なる一施設の改修に留まらない。それは、都市の文化インフラが時代とともに進化し、新たな価値を創造していくダイナミズムの現れである。住友家による高潔な寄贈から始まったこの美術館は、市民の芸術への希求に応え、数多のコレクションを育み、そして今、世紀を超えてその輝きを増そうとしている。リニューアルされた大阪市立美術館と、そこで開催される「日本国宝展」は、美術を愛するすべての人々にとって、忘れ得ぬ体験と感動を提供し、大阪の文化の至宝として、これからも永く愛され続けるに違いない。