東京 | 家具と絵画が織りなす、八王子のアート体験(村内美術館)

八王子に佇む、家具と絵画の殿堂

東京・八王子に位置する村内ファニチャーアクセス八王子本店内3階に、ひときわ異彩を放つ美術館が存在する。それが、公益財団法人村内美術館である。この美術館の最大の魅力は、日本初とも言われる「家具と絵画のコラボレーション」という独創的なコンセプトにある。館内に足を踏み入れると、バルビゾン派や印象派の巨匠たちの絵画と、世界の名だたるデザイナーズ家具が織りなす、調和のとれた空間が広がる。JR八王子駅北口からは無料シャトルバスが運行されており、気軽に訪れることができるのも嬉しい点だ。

この美術館のユニークさは、単に家具と絵画を並べて展示するに留まらない。展示された椅子に実際に腰掛け、絵画を鑑賞するという、他の美術館では味わえない体験が可能なのである(詳細は後述)。絵画の展示位置も、椅子の存在を考慮してか、一般的な美術館よりもやや高めに設定されているという特徴も持つ(ユーザー提供情報)。作品との距離も近く、一点一点を間近でじっくりと堪能できる。コレクションは創業者である村内道昌氏の蒐集品であり、常設展のみで構成されている点も、この美術館の個性を際立たせている。

美術館の成り立ちを考えると、そのユニークなコンセプトは必然であったと言えるかもしれない。家具販売を母体とする企業が設立した美術館であるからこそ、家具を単なる調度品としてではなく、絵画と同等の芸術的価値を持つものとして捉え、両者を融合させるという斬新な発想が生まれたのであろう。それは、日常空間と芸術空間の垣根を取り払い、より多くの人々に美意識の向上と豊かな生活空間の提案を試みる、創設者の強い意志の表れとも解釈できる。

基本情報 (Basic Information)詳細 (Details)
正式名称 (Official Name)公益財団法人村内美術館 (Public Interest Incorporated Foundation Murauchi Art Museum)
所在地 (Location)東京都八王子市左入町787 (村内ファニチャーアクセス八王子本店内3階)
開館時間 (Opening Hours)10:30~17:30 (入館締切 17:00)
休館日 (Closing Days)毎週水曜日 (祝日の場合は翌平日が振替休館)、年末年始
入館料 (Admission Fee)一般 600円、高大生 400円、小中生 300円 (障害者手帳をお持ちの方はご本人のみ無料)
主なアクセス (Main Access)JR八王子駅北口より無料シャトルバス運行 (約15分)
コンセプト (Concept)家具と絵画のコラボレーション
展示形式 (Exhibition Format)常設展のみ (初代代表のコレクション)
特徴 (Features)座れるデザイナーズチェア、絵画の目線高め、作品との近さ、展示点数の多さ

美の軌跡:村内美術館の誕生と村内道昌氏の情熱

村内美術館は、1982年(昭和57年)に、株式会社村内ファニチャーアクセスの創業者である村内道昌氏のコレクションを基に開館した。村内氏は、家具業界でその名を馳せる実業家であると同時に、深い美意識と情熱を持った美術品収集家でもあった。「綺麗は無条件ですから。綺麗なものはみんな好きでしょう」という言葉に、氏の美に対する純粋な想いが込められている。

当初のコレクションは、ミレーやコローといったバルビゾン派の作品を中心に、印象派とその周辺の画家の西洋絵画が中心であった。特にバルビゾン派の作品群は、村内氏の個人的な審美眼を色濃く反映しており、美術館の核となるコレクションを形成している。これらの作品群は、美術館が単なる美術品の陳列場所ではなく、収集家の美意識と情熱が息づく空間であることを物語っている。

美術館は2013年に「家具と絵画のコラボレーション美術館」としてリニューアルオープンし、その独自のコンセプトをより鮮明に打ち出した。このリニューアルは、単なる改装に留まらず、美術館のアイデンティティを再定義し、家具と絵画という二つの異なるジャンルの芸術を融合させることで、新たな鑑賞体験を提案しようとする試みであった。それは、美術品を家具と共に生活空間に取り入れるという、村内ファニチャーアクセスの事業とも深く結びついた、創業者ならではのビジョンを体現するものであったと言えるだろう。美術館の設立目的には、地域社会への貢献や家具業界への感謝も含まれており、単なる私設美術館の枠を超えた、より広範な文化的役割を担おうとする姿勢がうかがえる。

体験するアート:常設展と「今月の椅子」

村内美術館の展示は、創業者である村内道昌氏のコレクションによる常設展のみで構成されており、企画展は開催されない(ユーザー提供情報)。これは、一見すると変化に乏しいように感じられるかもしれないが、むしろ厳選されたコレクションとじっくり向き合い、その魅力を深く味わうことを促す展示方針と言えるだろう。

そして、この常設展にダイナミックな変化とインタラクティブな要素をもたらしているのが、「今月の椅子」というユニークな試みである。展示されているデザイナーズチェアの中から数点が選ばれ、来館者が実際に座って絵画を鑑賞することができるのだ。ハンス・J・ウェグナーの《ヴァレットチェア》やミヒャエル・トーネットの《No.4》、マルイチセーリング製作の《Jソファ》など、歴史的な名作椅子に身を委ね、絵画と対峙するという体験は、まさにこの美術館ならではの醍醐味である。

「今月の椅子」は定期的に入れ替えられるため(ユーザー提供情報、「5月は違う椅子に座ることができます」)、訪れるたびに新たな発見と感動が待っている。椅子に座る際には、鍵やキーホルダーなどをポケットから出す、リュックサックやカバンを身につけたまま座らないといった注意点があり、これは貴重な文化財である椅子を保護するための配慮である。ウェグナーの《ヴァレットチェア》に座った際に聞こえるかもしれない小物入れの蓋の「ガタッ」という音も、その椅子ならではの体験の一部として紹介されている。

このような展示方法は、美術品を「触れてはいけないもの」として遠ざけるのではなく、五感を通して体験するものとして捉える、美術館の哲学を象徴している。デザイナーズチェアに座るという身体的な行為を通じて、鑑賞者は作品世界のより深い理解へと誘われる。企画展がない代わりに、「今月の椅子」という形で定期的な変化を取り入れることで、常設コレクションに対する新たな視点を提供し、繰り返し訪れる楽しみを創出しているのである。これは、作品の入れ替えによる新しさではなく、作品との関わり方を変えることによる新しさを追求する、独創的な運営戦略と言えるだろう。

コレクションの舞台裏:創設者の想いと車の物語

村内美術館の個性は、絵画や家具のコレクションだけに留まらない。創業者・村内道昌氏の「綺麗なものはみんな好きでしょう」という美への探求心は、クラシックカーという意外な分野にも及んでいる。美術館のエントランスホールや休憩室には、数台のクラシックカーが展示されており、これらは入館料なしで誰でも自由に見学することができる。

その中でも特に目を引くのが、1958年製の《BMWイセッタ》である。その丸みを帯びた愛らしいフォルムと明るいクリーム色の塗装は、「かわいい」と来館者からの人気も高いという。これらの車両にはナンバープレートは付いていないものの、定期的に整備士が点検に訪れているという事実は(ユーザー提供情報)、単なる装飾品としてではなく、コレクションの一部として大切に維持管理されていることを示している。過去には、この《BMWイセッタ》の運転席に座って記念撮影ができるイベントも開催されたことがあり、美術品以外の展示物に対しても、来館者とのインタラクティブな関わりを模索する姿勢が垣間見える。

このようなクラシックカーの展示は、美術館全体に漂う、個人の邸宅に招かれたかのような温かく、パーソナルな雰囲気を一層強めている。絵画、家具、そしてクラシックカー。これらは一見すると異なるジャンルのように思えるが、いずれも村内氏の審美眼によって選び抜かれた「美しいもの」であり、その情熱の軌跡を物語る貴重な品々なのである。これらナンバーのないクラシックカーを専門の整備士が定期的に点検しているという事実は、それらが単なる展示物ではなく、美術館のアイデンティティと創設者の遺産にとって不可欠な要素と見なされていることを物語っている。このような非伝統的な博物館アイテムへの献身は、この施設にとっての「コレクション」の定義を広げるものである。エントランスホールとクラシックカーの展示が無料であることは、家具店を訪れた人々が、当初は有料の美術館エリアを訪れるつもりがなかったとしても、気軽に芸術に触れる機会を提供し、美術館本体への誘いとなる「ティザー」としての役割も果たしていると言えるだろう。

五感で味わう展示空間:独創的な鑑賞体験

村内美術館の展示空間は、その独創的な鑑賞方法によって、来館者に五感を通じた深い体験を提供する。特筆すべきは、絵画の展示方法と作品との距離感、そしてコレクションの密度である。

まず、絵画の展示位置が、他の美術館と比較してやや高めに設定されている点が挙げられる(ユーザー提供情報)。これは、館内に多数展示されている椅子やソファなどの家具類との調和を考慮し、家具越しにも絵画が鑑賞しやすいようにという配慮から生まれた、機能的な帰結と言えるだろう。家具、特にソファや応接セットといった大型のものは、物理的にも視覚的にも大きなスペースを占めるため、絵画を標準的な目の高さに展示した場合、家具が視界を遮ったり、絵画の存在感を薄めたりする可能性がある。したがって、絵画の展示位置を高くすることは、この美術館の「家具と絵画のコラボレーション」という中核コンセプトの中で、美術作品の完全性と視認性を維持するための必然的なデザイン選択なのである。

また、作品を「まじかで見ることができる」(ユーザー提供情報)という近接性も、この美術館の大きな特徴である。特に智内兄助氏の作品などは間近で鑑賞できるとされ、細部の筆致や色彩のニュアンスまで存分に味わうことができる。さらに、展示点数が多く、全体的に密度が高い展示構成(ユーザー提供情報)は、一部の来館者には「圧迫感」として感じられるかもしれないが、むしろそれはコレクションの豊かさを示すものであり、あたかも個人の蒐集家のサロンや宝物庫に迷い込んだかのような、濃密で没入感のある空間を創出している。ある美術愛好家は「お値打ち感の高い美術館です」と評しており、この展示密度がその印象に寄与している可能性も考えられる。このような展示スタイルは、無機質な「ホワイトキューブ」型の展示室とは対照的に、美術品が生活空間の中に息づいているかのような、温かみのある雰囲気を醸し出している。

コレクションの中核を成すのは、バルビゾン派の絵画群である。ジャン=フランソワ・ミレー、カミーユ・コロー、テオドール・ルソーといった巨匠たちの作品が並び、特にコローの《ヴィル・ダヴレーのカバスュ邸》は創設者のお気に入りであったと伝えられる。また、レオン=ヴィクトール・デュプレの作品も所蔵されている。印象派ではルノワールやヴラマンク、マネ、シスレー、エコール・ド・パリではキスリングや藤田嗣治の作品がコレクションに彩りを添えている。日本人画家では、智内兄助のまとまったコレクションが特筆される。

家具コレクションに目を向けると、「世界の有名デザイナーによる家具」が一堂に会し、前述のハンス・J・ウェグナー、ミヒャエル・トーネット、ヴェルナー・パントン、ヘリット・トーマス・リートフェルトらの名作椅子が、絵画と共に空間を構成している。ソファや応接セットなども作品に合わせて配置され、美術とデザインが一体となった独特の鑑賞環境を生み出している。アール・ヌーヴォーやアール・デコ様式の家具に関する詳細なリストは提供された資料からは確認できないものの、展示されているデザイナーズチェアは、これらの時代を含む多様なデザイン潮流を網羅していると考えられる。

そして、美術館入口の休憩室やロビーに展示されているクラシックカーは、入館料なしで鑑賞できるエリアとして、来館者を温かく迎え入れている。

美術館の先へ:八王子の魅力とアクセスガイド

村内美術館への訪問は、八王子という街の多面的な魅力を発見する良い機会ともなるだろう。まず、美術館へのアクセスは非常に便利である。JR八王子駅北口からは無料の専用シャトルバスが運行されており、八王子オクトーレ(旧東急スクエア)1階の郵便局前から約15分で美術館正面玄関入口に到着する。詳細な時刻表は美術館のウェブサイトで確認できる。

路線バスを利用する場合は、JR八王子駅北口11番のりば(平日・土曜の午後12時27分までは14番のりばの場合あり)または京王八王子駅4番のりばから、左入経由「純心女子学園」行き、または左入経由「戸吹」行きに乗車し、「村内ファニチャーアクセス」バス停で下車すぐである。あるいは、「みつい台」行き、「八日町経由創価大学循環」などで「馬場谷戸」バス停下車、徒歩7分というルートもある。

自動車でのアクセスも容易で、中央自動車道の八王子インターチェンジ第2出口(東京方面から)または八王子インターチェンジ出口(山梨方面から)より約1分、国道16号線の中央自動車道八王子インターチェンジ入口からも約1分という好立地である。駐車場は、村内ファニチャーアクセス本館西側駐車場、本館地下駐車場、新館OKAY地下駐車場が利用可能だ。

村内美術館を訪れた際には、近隣の観光スポットへも足を延ばしてみてはいかがだろうか。八王子には、同じく美術愛好家にとって魅力的な東京富士美術館があり、異なるコレクションや展示テーマを楽しむことができる。また、自然に触れたい場合は、小宮公園での散策 や、四季折々の美しい景観と豊かな自然、そして薬王院などの歴史的建造物を有する高尾山へのハイキングもおすすめである。さらに、八王子市夢美術館やコニカミノルタ サイエンスドーム(八王子市こども科学館)など、多様な文化施設が点在しており、村内美術館訪問と合わせて、八王子の文化的な魅力を満喫する一日を計画することができる。専用の無料シャトルバスの提供は、郊外の大型商業施設内という美術館の立地を考慮した、来館者の利便性への顕著な配慮であり、広域からの集客に対する積極的な姿勢を示している。近隣に東京富士美術館のような他の文化施設が存在することは、八王子を複数の文化拠点を巡る目的地として位置づける可能性を示唆しており、村内美術館はその中で独自のニッチを確立している。

村内美術館で過ごす、美と発見に満ちた時間

村内美術館は、単に美術品を鑑賞する場所以上の、豊かで多層的な体験を提供する稀有な空間である。創業者・村内道昌氏の個人的な情熱から生まれたコレクションは、バルビゾン派の珠玉の絵画から、時代を彩ったデザイナーズ家具、そして遊び心あふれるクラシックカーに至るまで、氏の美意識の軌跡を物語る。

この美術館の最大の魅力は、何と言っても「家具と絵画のコラボレーション」という独創的なコンセプトと、それを体現する展示方法にある。名作椅子に実際に腰掛け、通常よりも高い位置に掲げられた絵画と間近で対峙するという体験は、美術鑑賞の新たな地平を切り開く。それは、作品と鑑賞者の間に親密な対話を生み出し、美術品をより身近なものとして感じさせてくれる。

常設展のみという展示方針は、一期一会の特別展とは異なり、訪れるたびに新たな発見がある「深掘り」の鑑賞を可能にする。日替わり(月替わり)で座れる椅子が変わるという趣向も、その再訪の楽しみを増幅させる。

八王子という地に根差しながらも、無料シャトルバスの運行など、広域からの来訪者を温かく迎え入れる開かれた姿勢も、この美術館の魅力の一つだ。美術館入り口の休憩室やロビーに展示されたクラシックカーは無料で鑑賞でき、気軽に芸術の香りに触れることができる。

村内美術館は、美術とデザイン、そして生活が分かちがたく結びついていることを、静かに、しかし雄弁に語りかける。それは、創業者個人の情熱と商業的背景が融合し、伝統的な美術館の枠組みに挑戦する、ユニークでアクセスしやすい文化空間が如何に創造され得るかを示す好例と言えるだろう。八王子の地に佇むこの「隠れた宝石」は、訪れる者すべてに、美と発見に満ちた、忘れがたい時間を提供してくれるに違いない。